板張りの壁に、塗りかけの白。バケツに溜まった白色の海へ刷毛を突っ込み、僕は壁に向かって最後の一筆を押し付けた。縦に腕を下ろしていく。床まで到達すると、未完成だったものが完成へと変化した。


─────終わった。


肺に空気を溜め込み、一気に排出する。自然と上がった肩がストンと落ちた。後は乾くのを待つだけだ。


窓、というものを消し去ってしまいたかった。わざわざ部屋に板を貼り付け、内に光が届かないようにしたのはその為だった。これで、誰も外からは覗けまい。


ペンキが乾くと、僕は部屋にベット、クローゼット、机と椅子のみを設置した。見た目だけなら、とても客間らしくできたと思う。二階、一番左奥の部屋。ここに誰が入るのか。そんなもの、ただの一人しかいないだろう。


柏木秋奈。彼女を匿っておくには最高の場所が出来上がった。今は必要なくとも、必ずここへ彼女を連れてくる。そして誰の目にも触れさせはしない。


先生の家を改造することを、始めは少し躊躇った。しかし、仕方の無いことだったのだ。僕は彼女を愛している。それはもう、狂おしいほどに。だからきっと、先生も許してくれるだろう。そう信じている。


何を隠そう、全ては愛しい彼女のためなのだから。