「つまらない先入観と上辺だけを見て、知ったような口を聞くな」


自分でも、酷く怒りの態度を表したなと自覚した。目の前の彼女は、目を見開いて怯えたように固まってしまう。

普段は"優しい"を築いている僕ばかりを見ているせいだろうか。誰にも見せたことのない自身の内側に、秋奈は確かに震えていた。その様子に、僕は息を吐いて気持ちを落ち着ける。肩の力を抜いて、言葉を続ける。


「そんなに上辺だけでない会話を望むというのなら、放課後、誰もいなくなくなったこの図書室に来るといい。君は少し、僕と同じ匂いがするようだから」


彼女はどうやら、上辺と見えない本心が嫌いなようだ。ならば、ありのままで応えてやればいい。秋奈に倉本翔という人間の興味を誘うのなら、これしかないとそう思った。
これは賭けだ。秋奈が応えてくれるか否かで全てが決定される。


それから、しばらくの間があった。秋奈の目の前で余裕に振る舞う反面、そこに続く返事を想像して僕は自身で不安を煽る。


長いように思えた空白のあと、秋奈はようやく答えを表わした。ゆっくりと頷いて、こちらを見つめる。それを見て、僕は思わず笑みを浮かべた。


「なら、決まりだ」