晴れやかな空に、不自然なほど身を濡らした彼女に僕は言った。


「柏木さん…ですよね。その姿、一体どうしたんですか」


見ていたくせに、と聞こえない声で自身に言った。こちらを見た秋奈は嫌っているであろう人物に出会ったせいか、あからさまに嫌悪に顔を歪めた。しかし後ろに追っ手がいるのか、不安げに後方を確認すると僕にしがみつき言った。


「助けて」


考えている暇はない。もともとそのためにここまでやってきたのだ。彼女の言葉に頷くと、僕は急いで秋奈を図書室で匿うことにした。中に誰もいないことを確認し、立ち入ることが出来ないよう鍵を閉める。


読書スペースの椅子に座り、恐怖に震える秋奈を優しくなだめた。過去、十分に先生にしてやれなかった行為を、秋奈を通じて行う。それだけで自分の中の罪悪感が取り払われるような、そんな気がする。しかしそれでも、治まることのない秋奈の震えを翔はどうするべきか悩んでいた。

これが本当に先生であったならば、迷うことなく抱きしめるのに。


いいや彼女は生徒だ、と欲望を抑制する。彼女の素性が分からない今、探り探りの行動しかしてやれない。ただ"教師らしく"慰めるなど、あまりにも空疎ではないかと思いつつも、僕は立場という境界線から秋奈に接した。


その時、秋奈は背中を撫でる僕の手を振り払った。鋭い眼差しをこちらに向けて、強く言い放つ。


「何も出来ない、何もしないたかが教師のくせに、適当な心配も同情もいらない」


────あぁ、なるほど。

その言葉を聞いて、やっと理解した。彼女は、僕だけを特定して嫌っているというわけではなさそうだった。主に"教師"という存在こそが嫌悪の対象となり、その間に分厚い壁を形成する。この言い草は、明らかに過去より蓄積された類のものだ。

しかも彼女は、言葉の中に"適当な"とも含めた。つまりこれは、僕が仕事において上辺を貫いていることに勘づいている証拠だろう。恐らく秋奈は頭が良い。しかし、だからこその軽率な反応に思わず腹を立ててしまった。