あのあと、家に帰るとやはり先生が先に帰宅していた。


先生は、なぜ先に帰宅したはずの私が後なのかと疑問に思っていたようだが、ボロボロになったこの姿を見てすぐに何があったのかを察したようだった。ボタンを失ったカッターシャツ、涙で濡れた顔、おぼつかない足。それらは全て、秋奈が道中襲われたことを意味していた。


こんな姿で帰宅をするのは流石に気が引けたが、帰らずにもいられなかった。
先生に会いたいという衝動と、休みたいという意志が湧き上がって、どうしても脚はこの家へ向かった。先生にどんな心配をかけてしまうのかと、何から話すべきかと頭の中で考えながら、緊張で手を握る。


「秋奈!」と先生はすぐに駆け寄り、肩をつかむ。怖かったろう、とそのまま身を抱き寄せた。背中を撫で、心の安定を図る先生の優しさに、出し尽くしたと思っていた涙がまた溢れてしまいそうだった。


先生は、誰にやられた、というような言葉は一切発さなかった。ただ背中を撫で、落ち着くのを待っていてくれた。そしてそのあと、着替えておいでと私を身から離した。


着替えを済ませると、私は先生に何があったのかをしっかり説明した。恐らく話さなくてもいい、と先生は言っただろうが、気にならないはずもないと思うと、話してしまってもいいかと思った。


岸田が原因なのだということを知ると、先生は今までにないくらい嫌悪に顔を歪めた。その表情を見て、不覚にもゾクゾクと背筋を震わせる。


ああ、ああ。この顔だ。この顔が見たかった。


自分がこんな状態になってさえ、こんなこと思うこと正直驚いていた。先生が、私を想って私のために顔を歪める。それが嬉しくて愛おしくて堪らなかった。