「先生、愛してる」



「もしかして、柏木さんってあんまり体力ない?」


「うるさい。なんなの、急に…」


やっと呼吸が落ち着くと、岸田の方へ顔を上げた。彼は何やら真剣な面持ちで私のことを見つめている。なんだ、と思っていると、岸田は口を開いた。


「柏木さん、あの場にいるの少し辛そうだったから。俺のせいかもしれないけど」


ごめん、と彼は謝る。


「いや、別に…」


見透かされていた気持ちに驚いた。また同時に、気を使わせてしまうほど暗い表情を見せてしまっていたのかという事実にも直面する。申し訳ない、そんな思いが胸の内で広がる。

私のそんな様子に気づいてか、岸田は言った。


「柏木さん、あんなの気にする必要ないよ。前とは違って、君は今何にも縛られていないんだから。俺はいつだってここにいるし、柏木さんを必要としている。だから、竦まずに自信を持って前向いて歩いていいんだよ」


「………」


瞬間、ふわりと風がなびいた。
岸田の言葉を聞いた瞬間、なぜか熱を持ち始めた瞼に冷ややかな空気が心地良い。

岸田が言った"必要としている"という言葉が頭の奥で木霊する。じんわりと歪んでいく視界に混乱していると、頬に一粒の雫が伝い落ちたことに気がついた。それをすぐに手で拭い去る。
雫の正体が自身から溢れる涙だと気づいた時、また一粒、一粒と涙が頬を伝い落ち、制服に溶けて染み込んだ。
何度手で拭っても溢れるそれらは、まるで何かの糸が切れたかのように幾度となく頬を濡らす。

岸田が、場所が悪いと言ってすぐ近くの細い路地へ誘導した。私が涙を流し喉をひくつかせている間、岸田はずっと背中を撫でてくれていた。


他人からの優しさや暖かさは体に毒だ。
自分の中で分厚く氷漬けにされた弱い部分が、溶けて露わになっていくようで耐えられない。先生との時だってそうだった。こうして涙を流しては頭を撫でてもらっていた。


しばらくして落ち着くと、私はもういいよ、と撫でる岸田の手を止めた。


「ごめんなさい」


早く帰らなければ、と路地を出るため歩みを進める。しかし、放り投げていた腕を後ろから掴まれ、私は立ち止まった。


「岸田君?」