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先生の家で過ごすようになってから、既に五日が過ぎた。
あれより、母からの連絡は一切ない。
当初は、自分が家にいないということに不信感を抱いて探しに来るのではないか、という緊張感と期待も抱いていたのだが、次第にあの人がそんなことをするはずがないだろうという結論に至った。実の娘を愛人との性行為に誘うくらいだ。私が家からいなくなったところで、"他の男の家で同じことをしている"とでも思われているのかもしれない。母は、恐らくそういう人間だ。
初めは慣れなかった環境に少しずつ慣れ、先生の家の中でもそれとなく平然と過ごせるようになった。
以前より自分の部屋、というものを先生に与えられたわけだが、睡眠を取る時以外はあまり立ち入らないようにしている。先生との時間がすり減るのが惜しいという思いもあるが、少し、あの部屋には違和感を感じるのだ。
言っていた通り、確かに客間らしくベット、クローゼット、机と椅子のみが置かれたシンプルな部屋だった。家具は少ないにしろ、初めは何がそんな違和感を駆り立てるのだろうと思っていたが、最近ようやく気づくことが出来た。
あの部屋には、窓がない。
ほかのどの部屋にも、きちんと窓がある。しかし、私の自室となった場所だけそれがなかった。気になって先生に問うてみても、「元の持ち主に聞かなければわからない」と言う。そして「与えられる部屋がそこしかなくてね」とも付け加えた。
生活には特に支障がないためそれ以来追求することは無かったが、隔離されたような少々の気味悪さは、私の中で渦巻いていた。
学校へは、誰に不信感を抱かれるか分かったものでないので、向かうようにしている。
制服は洗濯をして再び着用できるようにし、教科書や文房具などは図書室に予備があるとのことで借りておくことにした。
その他学校外で必要なものなども、先生がある程度調達してくれた。
遠慮、というものをする間もないほど身の回りのものがあっという間に揃っていったことに驚きを隠せないでいる。
おかげで、私は問題なく私生活を送ることができている。こうして普通の生徒と同じように学校に身を置くことが出来るのも、彼がいてこそだった。
目の前で教卓に立つ男の国語教師が、何やら論文の説明をしているが全く頭に入ってこない。板書をノートに書き写すだけの作業を考えない頭のまま行い、大人しく授業を受けている"フリ"だけをしていた。
昼食後の授業はどうも身が入らない。残り十五分と迫った六限目の授業など、早く終われ、と終了を思う他何も無かった。
しばらくしてチャイムが鳴り響き、号令を終えると、私はもう直やってくる放課後にいつも通り心踊らせた。
先生には家でも十分会えるとはいえ、"放課後"というシチュエーションで得る幸福はまた違ったひと時である。
数分後、担任教師が教室へやって来る。終礼を終えて自由の身になると、すぐに教室を飛び出した。
しかし私はそこで、珍しく駆ける足を止める。なぜなら教室の目の前で、見慣れた人物が恐らく私のことを待っていたからだった。
「岸田君?」

