「先生、愛してる」



「この家は、僕の知り合いからの借り物なんだ。元の持ち主は理由あって引っ越したんだけど、売るのも壊すのも勿体ないと言ってね。家具も向こうで新しいものに取り替えるということだったから、それならって僕が使うことになったんだ」


へぇ、と私は相槌を打った。一人暮らしなのになぜ一軒家に住んでいるのかということもやっと理解出来た。しかしそんな中、私は再び囁かな疑問をぶつける。


「知り合いって女性の方ですか?」


「そうだけど、どうして?」


言いながら、先生がキッチンから戻ってくる。机の椅子に腰かけるよう私に促すと、彼も座席に着いた。目の前に、どうぞ、とガラスコップに入れられた麦茶が置かれる。中で四角い氷が二つプカプカと泳いでいた。ありがとうございます、とそのコップを手に取り、私は答える。


「男性が揃えたと考えるには、可愛らしいものばかりだったので」


「あぁ、なるほど」


先生は軽くうなずいた。そして、そうだ、と何かを思い出したような様子を見せる。


「ここに来るまで、しばらく待たせてしまってすまなかった」


申し訳なさそうに先生が言う。しかし、そんなことかと私は思っていた。確かに時間の過ごし方に苦労はしたものの、"待たされた"とは微塵も感じていなかったので急いで首を横に振る。


「本来なら一緒に来るべきだったんだろうけど、誰かに見られでもしたら問題になり兼ねないし、そもそも僕が帰宅できるのも十七時に図書室を閉館して、作業を終わらせたあとだからね。すぐに帰ることもできなくて」


「いえ、ここに留まらせて頂けるだけで十分です」


私が言うと、先生はそうか、と穏やかな表情を見せた。


手に取った麦茶をゴクリと喉に流し込む。ろくに水分も取れていない体に冷えた液体がしびれるほど沁み渡った。そのまま一気に飲み干し、ふぅ、と息をこぼす。

それを見て先生がくすりと笑った。はっとしてすぐにコップを机上に置く。


「ごめんなさい。お行儀が悪かったですか?」


「いや、いいんだよ」


先生は言った。


「あそこの冷蔵庫に飲み物ならいくらでも入ってるから、好きに使うといい。あと、少し落ち着いたら廊下の奥に浴室があるから入っておいで。代わりになる洋服は僕の物しかないけど、それでよければ脱衣所に置いてあるから」


空いたグラスを見て、先生が飲み物を持ってこようか、と言ったが、もう大丈夫ですと首を振った。こんな女生徒一人のために世話を焼いてくれる先生に、感謝の言葉で頭が埋め尽くされそうだった。