先生の言っていたものが彼の家だったと言うならば納得がいく。家ばかりのこの住宅路も、先生が図書室で言っていた"十八時までは我慢してくれ"という言葉の意味も。彼は、こんな哀れな自分を匿おうとしてくれていたのか。
だとするならば、その目的の家は、今私の目の前で堂々と佇んでいるこの家だということになる。
赤茶色のレンガ風に塗装された外装と黒い屋根、洋の雰囲気を漂わせるように飾られた小さな花々、しかも一軒家だ。本当にこれが先生の家なのか、もう一度地図を見返した。しかし、何度確認しても地図上に付けられた赤い丸とこの家は合致している。
私は恐る恐るその敷地に足を踏み入れた。玄関扉とは少し離れた場所に備え付けられた、インターホンに手を伸ばした。
カチッと突起したボタンを押すと、軽快なリズムでチャイムが鳴り響く。脈打つ心臓の音がうるさい。緊張から、手のひらを握った。数秒ほど待つと、インターホンから声が発せられる。
「どうぞ」
瞬間、心臓がどくんと一つ、大きく高鳴った。少し低くて、聞き心地の良い声。それは確かに私のよく知っている、愛しい先生の声だった。やはり、ここが先生の家いうことで間違いなかったようだ。
彼の言う通り玄関扉まで進む。ドアハンドルに手をかけると、覗き込むようにして中に入った。焦げ茶色のフローリングの床と真っ白な壁、外装の雰囲気と同調するような内装だった。
玄関先ではもうすでに先生が立って待っている。
「いらっしゃい」
微かに笑みを浮かべ、先生が言った。なんと返事を返したらいいのかわからず、とりあえず扉と鍵を閉めた。
先生はいつものようなスーツ姿ではなく、男性らしいラフな灰色のTシャツと黒のジーンズを着用していた。見慣れない姿に頬が熱くなる。先生がおいでと言った。一人ですぐ左の部屋へと入っていく。それを見ると、私は急いでローファーを脱いで先生のあとを追いかけた。
部屋に入ると、そこはどうやらリビングルームらしかった。キッチンにテーブル、それを挟むように椅子が二脚、テレビなどが揃っていて、それらのほとんどが木製の家具ばかりで統一されていた。 周りを見渡せば、インテリアとして設置されているお皿や人形も目に入る。
全体的にアンティークな装いを目にして、私は思わず呟いた。
「まるで、外国のお家みたいですね」
「まぁ、僕の趣味ではないんだけどね」
その言葉に、首を傾げる。先生の趣味でないとなると、他の人間が設置したということだ。以前一人暮らしだと聞いていたのだが、誰か同棲している人間がいるのかと気になった。
先生がキッチンの向こうで飲み物の準備をしてくれている。

