○
あれからしばらくを先生と過ごして、放課後になった。図書室には恐らくいつも来るメンバーがいるのだろう。先生は再び書庫を離れていった。
先生の明るい声が聞こえてくる度、会えないこの距離が虚しくなる。五、六限目の授業中は先生と過ごしていたとはいえ、すぐそこにいるとわかっていて近寄れないのはまた違った心苦しさがあった。
ああ、自分は本当に先生を愛しく思っているのだなとこの感情を経て再認識する。
しかし、先生と生徒という関係上、過剰に触れ合うことは決して許されない。その一線は、言わずとも暗黙の了解としてずっと二人で守り続けたきたものだ。
なのに、愛しいという感情が膨張する度、もどかしさは同時に発生していく。
─────もっと、先生と共にありたい。近くで感じていたい。
自分の中で、許されない感情が膨れ上がっていることに薄々勘づいている。
こんな想い、先生には絶対に知られてはいけない。知られてしまっては、これ以上膨張しては、関係の破錠さえありうることだ。それだけは、絶対にあってはならない。人を想うことはこんなにも苦しいものだったのかと、私は胸の辺りを掴んだ。
「あれ、岸田君…だったかな?」
瞬間、扉の外から聞こえてきた先生の言葉に心臓が跳ねた。岸田君、確かに先生は聞き覚えのある人物の名前を口にした。
書庫の奥からでははっきりと会話は聞こえてこない。気になって扉の前まで歩みを進め、片耳を扉に押し付けた。
「珍しいですね、どうしたんですか?」
先生はあくまで"先生"として彼に接している。
「いや、あの、柏木さんを見なかったですか?今日、どうも都合が悪いみたいで会えなくて」
岸田は言った。昨日の言葉通り、彼はまた下校を誘いに来たようだ。
先生が、今どんな顔をしているのかが気になって仕方がない。岸田との関わりがあることを知っていて尚、二人の接触があるのはとても不安に思えた。
先生を不快な気持ちにさせていないだろうか、思いが募って冷や汗をかく。
「柏木さんですか、今日は僕も見てないですね。もしかすると、お休みしているのかもしれません」
「そう、ですか」

