「先生、愛してる」



その一言に、自身の頬が熱を帯びていくのを感じた。胸の奥がきゅうっと締め付けられるようで、ほんの少し息苦しい。


先生はいつだって大人だ。
まるで心を見透かしているかのように、冷静に、私の求めている答えをくれる。けれど反対に、彼の心は私には見えない。それは、私がまだ子どもで、彼が大人だという違いがあるからだろうか。


少しのことで不安になるほど、自分はこの関係に余裕を持てないというのに、先生はいつ見ても変わらずで、読めない。だからこそつい言葉を求めてしまうのは、良くない癖なのかもしれないと思う。


瞬間、さぁ、と先生はこちらを凝視した。目つきは先ほどとは違い、より鋭いものになる。次に降り掛かる話題を想像して、思わず手のひらを強く握った。


「秋奈、そろそろいいだろう。話したくなければ、そもそもここに来ないはずだ。ここにいるということは、どうにかして欲しいんじゃないのか」


一気に核心を突かれる。そうだ。何も、意味を持たずにここへ来たのではなかった。


「わかり…ました…」


誰も信用してこなかった私が、唯一心を許せた相手が先生だった。問題を解決できると踏んできた訳では無い。ただ、話してしまえば幾分かは心が楽になるのではと思った。

ここに来れば、愛がある。今まで手にすることの出来なかったはずのものが、ここには存在している。冷えきった体も心も、この人なら温めてくれるだろうか。


私は恐る恐る口を開いた。


「少し、長くなるかも知れません」


先生は私の目から一瞬も視線をそらさない。彼に捕えられたかのような錯覚を覚えながら、私は経緯を語り始めた。


まずは家族との関係性から、母親の愛人のこと。そうして今回の問題へと触れていく。
時折話しながら涙を流し、言葉に詰まっても、先生は嫌な顔一つすることなく頭を撫で、その指で涙を拭ってくれた。

ゆっくりでいい、大丈夫、と彼の口から発せられる度、自身をきつく縛り付けていた見えない紐が徐々に解けていく感覚がする。