淡黒い表紙に金色の文字で『月光』とタイトルが綴られているその本は、少し前に先生が読んでいた本だ。
以前より気になっていたのだが、どの書店を巡っても実物を手にすることが出来なかったため、今回学校の図書室で取り寄せてもらうことにしたのだ。

幸い、この学校の図書のシステムにはある一定区間内の市立図書館からなら、そこにある本をこちらの高校に取り寄せられるようになっている。先生に相談したところそうすればいいと言われたので、今回はそれを利用させてもらった。


「わぁ、ありがとうございます」


自然と歓喜の声が漏れる。


借り出しのための手続きを行ってもらうと、早速その本を手に取り、人口密度の低い読書スペースの隅に腰掛けた。


図書室はあまり人気がない。

今の時代、ゲームやSNSに没頭する人が増え、本を読む人間が減少してきているせいだろう。以前、先生が「年々人が減ってきているんだよね」と嘆いていたのを聞いたことがある。

少し前までは、大学受験のために勉強道具を広げる人をちらほら見かけたのだが、受験シーズンも過ぎ去った四月後半、ここに足を踏み入れる人は少ない。せいぜい教師か、地味で根暗っぽい生徒が来るくらいだ。

今日も、そんな生徒が私以外に三人ほど、全員バラバラな席に着いて読書を楽しんでいる。名前も、学年や組も知らないが、それはいつもと変わらない同じメンバーだった。


周囲から目を背けて、持ってた本へ目線を落とす。分厚いハードカバーの表紙を手のひらでそっと撫でる。実に年期の入ったそれに、不思議と愛しさを感じた。何か、ずっと前からこの本に求められていたような、そんな感覚だ。


細く息を吐いて肩の緊張を解くと、私はやっと表紙に手をかけた。