Iroha-Side

「~~であるからして~~」

教師が黒板に問題の解説を行っている。
彩葉は朝の出来事について考え、 授業に集中できないでいた。

──柚子って時々、 ああやって鋭いことを言う子だとは知っていたけど、 まさかこれほど的確に当てられるとは思ってなかった。

柚子は中学時代、 相談役としての立場にいたらしい。
もともとそういう「人を見抜く目」を持っているのは噂で知っていたが、 実際に目の当たりにするまでは、 というか今日の朝から今に至るまではまだ、 信じられない気持ちの方が大きい。

──あんなに ぽわぽわ した 柚子が、 まさかこんなにとは。

思い返すと、 まだ自分の内心を言い当てられたことに対してドキドキしている。

──いや、 確かにカッコいい人だとは思ったし、 あの目を見て興味が湧いているのは確かなんだけど、 恋愛的な意味で好きになっているわけじゃないと思うし、 第一まだ名前すらしらない人で……

キーンコーンカーンコーン。

授業が終わった。
「いろはちゃん~? 」

ぽわぽわ度は相変わらずでありながら、 放課になったとたんに「朝、 何があった、 話せこの野郎」と言わんがごとく話しかけてくる柚子。

──1限が終わった後の放課も、 2限の後の放課も、 そして3限もか……

「柚子ぅ……べつになにもないってば~」

「絶対うそだよ~いろはちゃん~~??」

「う……うぅ……」

──笑顔で責めてくる……

「えぇっと。 別に大した話じゃないんだけど」

根負けした彩葉が、 今朝あった出来事を柚子に話す。
交差点で引かれた金髪の生徒。
見事着地したのはいいが怪我してたらと考えて保健室へと連れて行った。
その時の彼の目がすごく気になった、 と。

かいつまんで話したが、 柚子は納得したようだった。

「多分、 それは みぎつき きょう先輩だよ~」

「え!柚子知ってるの!?」

「車にはねられたのに、 足でうまく力をいなして着地したなら……」

そういうと、 ぴょんっと一回飛び跳ねる柚子。
 スタと着地して髪を指さす。 

 「きょう先輩はね~ちょっと有名な人だからぁ」

──ああ、 金髪だからかな

「頭すっごいいいんだよ~」

「そっちか……」

 言えば失礼だが、 とても頭のいい人には見えなかった。

「きょう先輩はあのIQ180ともいわれる生徒会長、 さえしき先輩 も認めるくらい頭がいいんだから、 きっとすっごい良いんだよぅ」

──生徒会長の名前なんてしらないし、 特に今は興味ないんだけど。

それでも、 すこしずつ京にもう一度会いたい気持ちが強くなる彩葉。

──あんなに運動神経が良くて、 頭もいいのに『あの目』なの……?

「あー……でも、 みぎつき先輩。 最近、 怖い人たちによく襲われてるみたいなんだよね~」
首を傾げながら右手を頬に当て、 思いついたように話す柚子。
「噂でだけど、 なにか悪いことでもしちゃったのかなぁ、 みぎつき先輩」

「怖い人?」

『怖い人』とは抽象的な表現だが、 おそらく一般人の『怖い人』をさしているのではなく、 不良グループに目をつけられているということだろう。

──うーん……。 運動神経抜群で、 頭が良くて、 金髪で、 不良グループに目をつけられて?

「いったい、 何者なの? 右月先輩って」

キーンコーンカーンコーン……
 4限開始のチャイムが鳴った。

「はーい、 授業はじめるぞぅ」
がたがたと席に着き始める生徒たち。 進学クラスとはいえ、 この学校は『自由』を重視する学校だ。 わりと授業の始め方は緩い。

「いろはちゃん、 気になるんだったら、 あとで一緒に保健室行こうね」

そう言い残し、 柚子は席に戻っていった。
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