Maybe LOVE【完】



「帰る」
「帰れるわけねぇだろ」
「帰るよ」
「帰らせるわけねぇだろ」
「……カオル」
「名前呼んだってムダ」

背もたれから離れて、すぐに立てるよう座るけど、カオルがあたしの肩を押して若干押さえつけられてる。
顔は逸らしたままだけど、それは特に何も言われない。

結局、顔を逸らしてもその理由を聞く割には顔を見れなくてもなんとも思わないんだと思う。
あたしがこのまま目を瞑って睡魔に襲われながらカオルの言葉に適当に相槌打っても怒らないんだと思う。

あたしはあの日も今もカオルの興味の対象で、気になると言ったのはあたしを惹きつけるため。

あたしを甘えさせたのはあたしの勝手。
そして今のあたしの感情もあたしの勝手。

こうしてカオルが隣にいるだけで安心できるのはカオルがそうしてるんじゃなくて、あたしがそう思ってるから。
あたし達の関係は曖昧というよりも、あたしだけの感情なんだと思う。

「あたしが帰ったら静かになるでしょ」
「は?」
「迷惑な酔っ払いが帰るのよ?喜べば」

カオルに顔を向けると意外にも至近距離に顔があって驚いたけど、目を合わせて言い切った。

表情一つ変えずあたしの言葉を聞いていたけど、その表情から見て何を言ってるのかわかってないみたいだった。
当然、「何言ってんだ?」って返って来たから、「そのままの意味だけど」と返した。

「俺がいつ迷惑だって言った?」
「ほぼ毎回」
「は?」
「あたしがここに泊まる時はいつも。てか、常に舌打ちしてる」

これは本当のことで、あたしがここに来てからはカオルの言葉遣いは優しくなるところか荒々しい。
あの日も遠慮がなさすぎるでしょって思ったし、でもそれが素だから逆にやりやすいとも思ってたけど、舌打ちは酷すぎると思う。

あたしだって自覚はあるし、厚かましいよなって思ってるけど、改めなきゃなって思いながらも改めなかったけど。
だけど、そうしていられるカオルの傍にいるときが一番楽だったし温かくなれた。
こんなにも落ち着く人はカオル以外にいないから、ずっと甘えてた。

それもあたしの自分勝手な思いだけど。

「俺の舌打ちは今に始まったことじゃないだろ」
「知ってる」
「じゃあ、なんでそういうこと言うんだ」
「別に…」
「あ?」
「あたし以外の女の子の前だとそんな事しないんじゃない?あたしだから、あたしの態度にイラっとするから舌打ちするんでしょ?あたし知ってるのよ。あたしが酔って先にベッドで寝ていて、あとからカオルが入ってくるとき、いつも舌打ちしてる」


あたしがそう言うとカオルはまた舌打ちした。

ここまで来たらもう癖なんだろう。
わざとするにはさすがに限度がある。
舌打ちされるあたしにも原因はもちろんある。

態度はデカイし可愛くないし、そのうえ酔ってベッドを占領して、朝はお風呂まで借りてるのに厚かましくも朝食まで頂戴する。
それが原因だということくらいあたしにだって重々理解してるつもり。
だけど、カオルはもう来るなとは言わないし懲りずに家に呼んでくれる。
それに次のお誘いが楽しみな自分だっている。

あたしの気持ちがどうであれ、カオルの気持ちを聞く気は無い。
このままの関係が一番心地良いのは自分が一番よくわかってるし、万が一そういうことになったとして、この居心地の良さが変わらない保障はない。

“恋人”になって毎日心を痛めるのはもう疲れた。