ぜんぶ抱きしめて。〜双子の月とキミ〜



「なんで私がそんな別世界に行っちゃったと思うの?」


たしかに、夢にしてはリアルすぎた。想史の手の温かさも、背中のにおいも、コスモスの葉が肘をくすぐる感覚も、まだ覚えている。私は実際に、どこか別のところに存在する世界で生きていた?

寝ていただけと思っていたけど、本当は別の世界に行っていた。それが本当ならすごいけど、あのすべり台の上にずっといて寝ていたのか、消えていたのか。それは誰も見ていないからわからない。


「なら、もともとその世界にいた私はどこへ行っちゃったの? なんでそっちへ行くことができたの?」

「そんなの知らねーよ。俺が知るわけないだろ」


そりゃそうだ。そもそも、パラレルワールドが存在するっていうのも、朔の仮説だった。だけど、あの世界が夢じゃなくて本当に存在するなら。私は息を飲む。それは眩しすぎるほどの希望だった。

あっちでは、すべてのことがうまくいった。お小遣いは多かったし、お父さんもお母さんも私に優しかった。友達も朔を通さなくても私と仲良くしてくれたし。勉強も平均点で褒められた。