「入院食出るよ」

「そんなの、美味しくないし足りないでしょ」

「じゃあ……やっぱいいや。あんまり食べたくない」


朔がノリノリで返さないので、お母さんは残念そうな顔をした。


「じゃあ、行ってくる。何かあったらすぐ電話してよ」


お母さんはそう私に念を押して病室を出ていった。

ベッドとテレビ、小さな洗面台とトイレ。それしかない個室に横たわった朔と二人きり。気まずいけど、ここでどこかに行ったりしたらお母さんに何を言われるか。

仕方なくテレビのリモコンをつかみ、部屋の奥の窓際にある椅子に腰かけた。リモコンのボタンを押すけど、テレビはうんともすんとも言わない。


「カード入れなきゃ、無理だろ」


朔がゆっくりこちらに顔を向けて言う。カード? よく見ると、テレビの下にカードの差込口があった。そっか、病院のテレビって有料なんだ。テレビカードを買って入れなきゃ見られないなんてひどい。けち。


「じゃあ、カード買ってきてあげる」


テレビもなしで朔と二人きりなんて、無理。立ち上がると、朔は首を振った。


「いらない。静かに寝てたい」


人の厚意を踏みにじって……まだ買ってきてないけど。すとんと椅子に戻ると、朔が点滴の刺さった腕を動かした。何をするのかと思ったら、人差し指で左の頬を指さす。