殴られた頬が痛くて、それ以上に胸が痛くて急に走れなくなった。私は道端でわんわん泣きはじめた。

みんな、みんな、朔さえいればいいんだ。朔が元気ならそれでいいんだ。私がどんなことで悩んでいて、悲し思いをしているかなんて、どうだっていいんだ。『そんなの、自分でなんとかできるでしょ。自分の責任でしょ』って、冷たく笑うんだ──。

通行人の目も気にせずにしばらく泣いていた。すると突然バッグの中に放り込んでいた携帯が鳴った。画面を見ると、お母さんの番号が。


「……はい」


想史に言われたからじゃない。無視してまたあちこちに問い合わされたら恥ずかしいから。素直に電話に出ると、向こうから興奮したようなお母さんの声が聞こえてきた。


『瑠奈? 朔、今目を覚ましたの!』


朔が、目を覚ました。意識を取り戻したってことか。


「良かったね」


そりゃあ良かった。みんな大喜びだ。私だって朔が死んじゃえばいいとか、そこまでは思わないけど素直には喜べない。ごめんね。


『お父さんが仕事から戻ったら、すぐに病院に来てね』


お母さんはそう言うと、あっさり電話を切った。

やる気を出せば自転車で行くこともできるのだけど、そんな気力はわかなかった。想史に叩かれた頬が、熱くて痛かった。