考えても答えは出ない。朔が復帰した時のために真面目にノートを取っておこうと、シャーペンを握りなおす。どうせ同じクラスの想史のノートを見せてもらうんだろうけど、そうでも思わないとまた寝てしまいそうだった。
昨日からの波乱万丈で、流されるままに生きてきた私は疲れ果てていた。全ての授業が終わり、担任に携帯を返してもらう。電源を入れるけどお母さんからの『学校が終わったら病院に来てね』というメッセージしか届いていなかった。
「相棒、大変なんだってな。すぐ良くなるように祈ってるよ」
担任からの優しい言葉にお礼を言ってうなずいた。さて、学校を出たらお母さんに連絡しないと。何か持っていくものとかあるかもしれないし……。
バッグをつかんで教室を出ようとすると、出入口から誰かが私の名を呼んだ。
「市川瑠奈呼んでくれる?」
ハッとして振り返ると、そこには茶色っぽい髪のすらりとした男子が。彼は大声を出さないよう、一番近くにいた女子に頼んでいた。
「想史?」
人気者で学校の有名人である想史に、普段から全くパッとしない私が呼び出された。そのことがあまりに意外だったようで、教室が失礼なほどざわついた。



