支度ができたので、いつもより重く感じるバッグを引きずるようにして家を出る。


「行ってきますを言う相手もいない……」


そんなうがい薬のCMなかったっけ。ちょっと違うか。とぼとぼと歩き出すけど、いつもの角に想史はいなかった。

今日は朝練がある日だっけ。いや、単に時間が合わなくて、すれ違っちゃっただけかも。想史に会えなくて、余計に心細くなった。朔がいなきゃ、想史が私と一緒に登校する理由はないんだ。

結局登校中に想史に会うことはなく、学校に着いてしまった。朔のクラス担任にはお父さんから連絡しているはず。私がしなきゃいけないことはない。あるとしたら、しっかり勉強することくらい。

夢の中と寸分たがわない教室の景色。なのに、何故かこの現実の方が何倍も色褪せて見える。


「おはよ、瑠奈」


穂香に声をかけられ、びくりと背中が震えた。振り返ると、返事をする前に穂香が心配そうな顔で詰め寄ってきた。


「ねえ、昨夜から朔と連絡取れないんだけど。何かあった?」


穂香は朔の彼女。毎日おやすみメールとかしてても不思議じゃない。いつもすぐに来る返事が来なかったら心配になるだろう。