「朔もいたけどね。ねえ穂香、どうして朔と一緒に登校しないの? カレカノでしょ?」
「だって家が逆方向だもん」
「朔が早く家を出て、迎えに行けばいいんだよ。好きならそれくらいするべき」
そうすれば、私は想史と二人で登校できるのに。
「彼氏もいないのに何言ってんの。恋愛はね、どっちかが無理したら続かないんだよ」
ぐううっ、言われた……! 産まれてこのかた彼氏ナシの私が余計なこと言うんじゃなかった。
完全に沈没して机に突っ伏した私に、窓際にもたれた穂香の声が降ってくる。
「そういえば想史くん、彼女できたんだってね」
「……え……!?」
今、何て言った!? がばりと顔を上げると、穂香は意外そうに大きな目を丸くした。
「もしかして、知らなかった?」
「し、しら、知らない。なにそれ、どういうこと」
「うそ。なんで知らないの。朔に聞かなかった?」
穂香はぽりぽりと首の後ろをかいた。想史に彼女って……本人も朔も、そんなこと全く話題に出さなかったけど。
「一週間くらい前だったかな。部活の練習試合の時に相手校のマネージャーに告られて、付き合うことになったんだって」
穂香の声は、途中から自分が水の中に入ってしまったように、くぐもって聞こえた。まるで遠い世界の出来事みたいに、現実感を伴わずに耳を通り抜けていく。



