謝りたくない。顔も見たくない。けど、相手は兄だ。これからの生活、ずっと気まずいのもしんどい。

ドアの前でしばらく悩んで、ふと気づいた。物音、しなくない?

壁一枚で隔てられていると言っても、向こうが歩いたりテレビをつけてゲームしたりすれば、それなりの生活音が聞こえてくる。なのに、隣の部屋からはベッドのシーツが擦れる音すらしない。

朔の部屋のドアに耳をぴたっと付けて集中する。けれどやはり、何も聞こえない。寝てしまった? それにしても、どうしていつも鬱陶しいほど感じる朔の気配を感じないんだろう。

私たちの部屋にはそれぞれ鍵がかからないようになっている。両親の意向だ。それをいいことに、思い切ってドアノブを握った。音を立てないよう、慎重にゆっくりとドアを開ける。もし朔が中にいたら、目が合う前に逃げよう。

少しだけ空いた隙間から部屋の中をのぞく。電気がついておらず、真っ暗だ。カーテンを透かして差し込む月の光がぼんやりと床を照らしていた。