家に帰ると、お母さんが玄関で仁王立ちしていた。


「こんなに遅くまでどこに行ってたの」


遅くって……ちらと靴箱の上の小さな置時計に目をやる。針は八時半を指していた。たしかに、遅いといえば遅いか。


「お腹が空いたので、コンビニに」

「ご飯ができるまで待てなかったの? 部屋に呼びにいったらいないんだもん、びっくりしたじゃない。どれだけゆっくりしてたの。さっさと食べちゃって」


いい年して『だもん』とかいうお母さんはくるりと大きな体を返し、リビングの方へ戻っていく。そっか、ご飯まだ食べてなかったっけ。そう言えばお腹が空いているかも。

忍者のようにこっそりと、壁から顔をのぞかせる。カウンターキッチンの前に置かれたダイニングテーブルには、私ひとりぶんの夕食が。リビングにはテレビの前のソファにお父さんが座っているだけで、朔はいない。もう部屋に戻ったのかな。

テーブルにつき、食事の上にかけられたラップを外す。今日のおかずは……おっと珍しい。赤魚の煮つけだ。それとひじきの煮物、冷奴、お味噌汁。いつも大食いの朔に合わせてお肉が多いうちの食卓にしてはやけに健康的。