「あんたが私の勇気を全部、奪っていったんだ」


誰も悪気なんてないのだろう。だけど私の自尊心は、朔と一緒にいることでずっと傷つけられてきた。

どうして朔みたいにできないの。朔ともっと似てたら良かったのにね。そんな風に言われ続けた私が、好きな人に告白するには、どれだけの勇気が必要だっただろう。

たったひとり、私のことを朔より先に見つけて手を繋いでくれた想史。あの時だったんだ。彼を好きになったのは。そんな彼を失いたくないと思うのは、そんなに悪いことだったんだろうか。

私が朔みたいに見た目が良かったら。自分に自信が持ててたら、告白できたのかな。そうしたら、想史の隣に立って彼と手を繋いで横断歩道を渡ったのは、私だったのかな。想史が優しく見つめてくれるのは、この私だったのかな。

考えれば考えるほどどうしようもなく胸が苦しくて、涙がこみ上げた。


「おい、瑠奈……」


困りきった顔で、朔がこちらに手を伸ばす。だけど私は、それを払いのけた。


「瑠奈!」


何も言わず、朔に背を向けて走り出した。もうあんな家、帰りたくない。朔の顔なんて見たくない。