ぜんぶ抱きしめて。〜双子の月とキミ〜



だから、私は想史への想いを断ち切ろうとした。他の人を好きになれたら楽なのにと、何度思ったことだろう。“もう好きじゃない”と、何度も自分に言い聞かせた。

だけど、こうして本人を目の前にすると、どうしても胸が高鳴ってしまう。好きだなあと、しみじみと感じてしまう。本当私って、進歩がない。あっちの世界の想史にもらった勇気はどこに消えてしまったんだろう。こっちの世界に帰ってくるときに使いきってしまったのかな。

まあ……とにかく、これで想史とは進路が別々になるもの。想史は最寄駅から一時間くらい電車に乗ったところにある市立大学に進学が決まっている。朔の大学よりランクは落ちるけど、私から見たら雲の上の偏差値の子じゃないと入れない。

お互いに全然違う世界で、違う人たちと知り合って。お互いが全然知らない人と恋をしたり、友達ができたり。昔朔が病院で言っていたように、私たちはそれぞれ大人になっていくんだろう。


「そんなことない。モテないよ、全然」


想史が言い返して、会話が途切れてしまった。微妙な沈黙が落ちる。


「えっと……じゃあまた、クラス会とか」

「そうじゃなくて」

「んん?」


何か言いたそうなのにはっきりしない想史。こんな姿、初めて見たかも。首をかしげていると、想史は拳を握り、何かを決心したように口を開いた。


「そもそも俺はお前に会いたくて、この辺ウロウロしてたんだ」

「は? どうして?」