「じゃあ、行ってくるわ。お前も頑張れよ。嫌な事があっても、昔みたいに家出するなよ」


並行世界にトリップしちゃった時のことを言ってるんだろう。


「しないよ」


手を振り払うと、朔はにやりと笑って言った。


「ひとつ予言してやるよ。近いうち、きっといいことがあるよ」

「私に? その予言あてになるの?」

「信じる者は救われるってね」

「何それ」


と言いながら、ちょとだけテンションが上がった。昔から朔はさらっと不思議なことを言ったりする。私より私に起きていることを正確に理解しているところがあるから、もしかしたら本当に良いことがあるかも。


「はは。じゃあな」


長細い新幹線の白い顔が見えた。指定席だから、急ぐ必要はない。朔は他の乗客の最後尾につき、ゆっくりと車内に乗り込んだ。


「朔、元気でね!」


扉が閉まる瞬間に叫ぶと、朔は笑ってこちらに手を振った。私もお母さんもぶんぶんと大きく腕を振り返した。


「あーあ、寂しくなっちゃった~」


お母さんは切なそうに見えなくなった新幹線の方を見ていた。


「そうだね」


あんなにウザいウザいと思っていた朔でも、いなくなると寂しいものだ。


「まあ、すぐ帰ってくるだろ」


五月には大型連休がある。きっとそのとき、顔を見せるだろう。お父さんの言葉に、お母さんは気を取り直したように丸まっていた背中を伸ばした。