想史が息を飲み、こちらを見つめる。
『呼吸も血圧も、正常に戻ったの。ねえ、奇跡みたいでしょ。信じられる?』
その声から、ぼろぼろと泣きながら喜んでる穂香の顔が目に浮かんだ。
「なに、よう……! 朔のバカッ、心配させて!」
緊張が解けた瞬間、体中から力が抜けた。盛大に咲くコスモス畑の中に倒れ込むように座った。
「わあああぁあぁぁあ……あぁぁあ、うあぁ……」
良かった、朔。まだ生きているんだね。良かった……。
安心すると胸の中に張りつめていた何かがふつりと切れた。大粒の涙が溢れ、声を出さずにいられない。私の中で朔は大事な存在だったのだと、今更気づいた。
「瑠奈」
想史が目の前に跪く。どれだけ拭っても涙が止まらない。そんな私を責めもせず、まるで許しを与えるように優しく抱きしめる。
身に覚えのある温かいぬくもり。もうこれは私のものじゃない。そう思うと切なくて、ちぎれてしまいそう。でも私はこうするしかなかったのだと思う。朔を失うくらいなら、初恋を失った方がマシだ。
「お帰り、瑠奈」
想史は優しく私の髪をなでた。彼の肩越しに、三日月が見えた。全てを許すような優しい光が、私たちと柔らかな風に吹かれるコスモス畑を照らしていた。