陸に降ろされた瞬間、バッと想史から離れる。もうこの想史は他人の彼氏だ。私のじゃない……。

その顔を見た瞬間、泣きそうになる。けど、自分のことばかり考えている場合じゃない。


「あ、ありがとう助けてくれて。それで、朔は?」


さっき、あっちの世界で電話をした直後に川に入って、病院を出たばかりのはずの想史が助けてくれた。やっぱり、時間の流れ方に多少誤差があるみたい。

あの電話から、どれくらいの時間が経ったんだろう。朔はまだ、息をしている?


「まだ病院。俺はバスで来たから、あの電話から三十分くらい経ったはずだけど……」


想史はずぶ濡れで、放り投げてある自分のバッグを拾い上げ、携帯を取りだした。その瞬間、その携帯がけたたましい音を立てて鳴った。

まさか、朔に何か──。全身が震える。


「もしもし」


想史が携帯を操作し、スピーカーモードに。


『想史! 瑠奈と会えた?』


それは穂香の涙声だった。どくんどくんと、不安で胸が忙しく音を立てる。


「うん、無事に捕獲。で、どうした?」

『あのね、あの、朔が……』

「朔が?」


祈るような気持ちで次の言葉を待つ。少し深呼吸したような間を置いて、穂香が言った。


『たった今、意識を取り戻して……』