川の方を向き直ると、月がそのままの大きさでだんだんと川辺に近づいてきていた。まるで、夕日が海に沈んでいくように。


「想史、見える?」

「ああ、見える」


私たちはどちらともなく、お互いの手をぎゅっと強くにぎりあった。


「少しの間だけど、ありがとう。楽しかったよ」

「俺も」

「あっちでは……ひとりで頑張るから。応援しててね」

「うん。いつだってお前の幸せを願ってるよ」


こっちの想史の彼女でいられた期間は、私にとってかけがえのない宝物だよ。本当に幸せだった。毎日が、愛でいっぱいだった。


「大好きだよ、想史」


口に出したら、想いと一緒に涙が溢れだした。


「俺もだよ」


想史は寂し気な微笑みで、私に軽くキスをした。想史とキスをするのも今日が最初で最後だね。


「大丈夫。きっとあっちの世界で、また会えるよ。お前のことを好きな俺に」

「……そうかな」

「信じててよ」


元の世界の想史が私を好きになってくれる? 今は信じることができない。でも、このままこの想史と別れたままになってしまうのは、あまりにも悲しくて切なくて。


「うん。じゃあ、また会おうね、想史」


そう言いながら、なかなか繋いだ手を離せない。そうしているうちに、月のお尻が水面に着いた。まるで川に飲みこまれていくように、二つの月が一つになっていく。溶けあっていく。