月に向かって叫ぶ。どうか、どうかこの声が朔に届きますように。

けれどどれだけ祈りを捧げても、月はひとつのまま。

本格的に泣きそうになったそのとき、頭上から声がした。


「瑠奈、川!」


ハッと声のした橋の上を見上げる。そこにはどうやってたどり着いたのか、泥まみれの想史の姿が。信じられなくてまばたきをしているうちに、彼が大きな声で叫ぶ。


「川に、月が写ってる! 二つの月だ!」


そう言いながら、こちらの方へ向かってくる。階段を駆け下りてくる想史を待たず、川面を見つめた。

川面に、夜空の月が映っている。増水して流れが速くなっているはずなのに、月が写っているところだけは時間が止まっているように穏やかだ。ぴたりと止まって動かない水面に、月がはっきりと写っていた。


「ふたつの……月だぁ……」


不思議な光景に目を奪われる。これで帰れるかもしれない。


「カンが当たったな。それにしても瑠奈、ここからどうするつもり?」


息を切らせて隣に立った想史は、汗まみれの顔をしていた。なんとか先生たちを振り切ってここまで走ってきたのかもしれない。


「どう……って」


ふたつの月を発見したのはいいけど、なかなかひとつになろうとしない。そもそも水面に写った月と、空に浮かんだ月をどうやってひとつにしたらいいのか。