異常に喉が渇いている。泣きすぎて体が水分を失ってしまったに違いない。水分補給しよう。
のろのろと部屋のドアを開ける。と、玄関の自動キーがリモコンで開く短い電子音がして身構えた。朔が部活を終えて帰って来たに違いない。気づけば辺りが暗くなっていた。思ったより長い間ミノムシ状態だったみたい。
朔に会いたくない……。でも喉はからからで、今すぐ水分を補給しないと干からびてしまいそう。
ドアの中でそっと息をひそめて待つと、話し声が聞こえてきた。
「お帰り。洗濯物すぐ出しておいてね」
「へいへい。なんだ、ジュースないの」
「ジュースはお父さんの血糖値がガーンと上がっちゃうのよ。でも好きだから置いておくと飲んじゃうでしょ」
あいつ、台所で冷蔵庫を開けているに違いない。今だ。
カウンターキッチンに続くリビングに顔を出さずに外に出られる造りの家で良かった。足音を立てないように部屋着のままでそっと部屋を抜け出した。
携帯だけを持って外に出る。ケースの中にお小遣いを入金してある電子マネーカードを入れてあるのでこれがあれば困らない。
外は家の中より一層暗い。街灯があるから歩くのには困らないけど、あまりうろうろしない方がいいよね。



