「瑠奈!」


連れていかれる。どうしてかそう思った俺は、全速力ですべり台に駆け寄った。


「瑠奈! こっち向け、瑠奈!」


白い腕が瑠奈の体を優しく抱きかかえるようにして、穴の中へ引きずり込んでいく。瑠奈は俺の声なんて聞こえていないようで、その腕に体を預けていた。


「くそっ」


すべり台の階段に足をかける。子供の頃は余裕だった階段が、今ではものすごく昇りにくい。スニーカーの前半分しか、階段に乗らない。だけど、文句を言っている場合じゃない。


「行くなっ、瑠奈ぁぁっ!」


もう少しで頂上というところで、瑠奈に手を伸ばす。届いたと思った瞬間、白い穴が瑠奈の全てを飲み込んだ。


「あっ!」


白く光る穴の中で、瑠奈の体は見えなくなった。そして、ファスナーが閉められるように穴が小さくなっていく。

取り戻さなくては。意を決して閉じかけている穴に手を突っ込む。しかし穴は俺の手を吐き出すように後ろに移動し、そのまま消えてしまった。目の前には、何もない通常の景色だけがあった。


「嘘……だろ」


手すりに囲まれた狭いすべり台の頂上に膝をつく。俺は夢を見ているのか? 瑠奈が、目の前で消えてしまった──。

きょろきょろと辺りを見渡す。だけど、瑠奈の姿はどこにも見えない。ぞくぞくと体中に悪寒が走る。

一気に寒くなってしまった夜の闇で、ただ頭を抱えるしかできなかった。