「いってきます」


玄関から低い声が聞こえる。私はそれを必死に追いかける。

今日も私の方が起きるのが遅かった。同じ時間にアラームをセットしているはずなのに、あっちの方が夜遅くまで勉強しているはずなのに、なぜかいつも私の方が遅い。


「瑠奈(ルナ)~。ちょっとは朔(サク)を見習ったら?」


バタバタと慌てる私の背中に、お母さんがため息交じりの言葉を投げる。


「あんたったらこの前のテストはボロボロだし、進路も決まってないし、これからいったいどうするつもり……」

「いってきまーす」


スクールバッグを肩に引っかけて靴を履いている間に、朔の姿は見えなくなっていた。一度バタンと音を立てて閉まりかけたドアを慌てて開けると、電池式で施錠されるようになっている自動キーがピピピピと警告音を発した。


「もう、何やってるの」


お母さんがパタパタと玄関に出てくる足音を聞きながら、ドアを閉めて外に出た。朔はもう家の敷地を出て、歩いて十歩くらいのところにある角を曲がろうとしていた。