3年生の春。


私は放課後のパソコン教室で、夏に行われるワープロ検定に向けて練習をしていた。


何故かと言うと、12月に受けた2級の検定試験に無事合格できたからだ。


相葉先生も、

「受かって良かったなぁ。」

そう言って褒めてくれた。


2級に合格できた事も嬉しかったけれど、それ以上に嬉しかったのは相葉先生に褒められた事。


何回受けても私の一番の喜びは先生の反応で、賞状よりも、ずっと、ずっと嬉しかったんだ。


こうなったら当然、私は上を目指したくなるわけで。


少し前、未だに続いている“放課後準備室訪問”の時に、私は相葉先生に質問した。



「先生、1級って受けた人いるの?」


相葉先生は「うーん…」と言いながら、宙を見上げてしばし考えると、


「今までに一人だけいたなぁ。」

と言った。


「一人だけ!?」


その時の私は完全に“ワープロ検定1級”というものを甘くみていて、もっと沢山、合格した人がいるものだと思っていた。

驚く私に相葉先生は“うん”と頷くと、


「挑戦するのか?」

「そりゃ、そうでしょう。」


ニヤッと笑いながら問い掛けた先生に、私は“当たり前”と言わんばかりに答えた。


その頃“河原さくは検定が好き”と、先生達の間では随分有名になっていたらしい。


確かに2年生の時から誰よりも早くワープロ検定を受け、その他にも珠算、暗算、漢字、英検、ペン字…

とにかく校内で行われる検定は片っ端から受けまくっていた。


そんな調子だったから、私がこの学校で一度も教わった事がない先生にまで知られていたらしく、同じ高校に通う妹から、


「お姉ちゃんのせいで私まで検定受けると思われてるじゃん!私は受けたくないのに!」


と、“検定を受けて怒られる”という珍しい経験も度々していた。


まぁ、そんな訳で“ワープロ検定1級”という目標が出来た私は、こんなに早い時期から準備をし始めていたのだけど、


この練習をしていて、気になる事が出来たんだ…。