次の日の放課後も、またいつものようにある場所のドアを叩いた。


「相葉先生?」

コンコンッとノックをしてからドアを開けると、


「おぉー?」

相葉先生は椅子に座ったまま、少し後ろに反るように振り返った。


既に日課のようになってきた、私のパソコン準備室訪問。


何度目かなんて、とっくに分からない。


「どうした?」


先生にそう聞かれただけで、私はドキドキしていた。


その時のドキドキには、相葉先生が目の前にいるっていう事と

本当は全然用事なんて無いのに…っていう、ハラハラ感が混じっていた。



「先生、ここがよく分かんなくて…。」


そう言って、相葉先生に簿記のワークブックを差し出すと、


「ここは…」

と、相葉先生が一生懸命に説明を始めた。


それが先生の仕事だから当たり前なんだけど、


『私に対するそれは、他の人にするのとは違う。』

そう思いたかった。


少しでも特別になりたいっていう事が、ささやかな私の願いだったから。



「…先生、ありがとう!分かりました。」


私は笑顔でお礼を言うと、


「ねぇ、先生って甘いものとか好き?」

と、どさくさ紛れにリサーチを開始する。


「甘いもの?んー…まぁ、食べるかな。」

たばこを1本取り出しながら、相葉先生が答えた。


それを見て、

『吸ってるたばこはセブンスター。』

そんな情報も密かに頭の中にインプットしていた。