そのころ、人間の国はちょっとした騒ぎになっていた。

なにしろ、自転車が空を飛んでるのだ。

しかもすごい勢いでこちらに接近しているのだ。

城下はお祭り並みにザワザワしていた。
 
 「おい、あれは例の魔王なんじゃないのか?」

 「まさか。魔王は勇者石川様が倒しに行ったはずだ……」

 「そうだそうだ、魔王はたしか、和服を着ているんだろ?」

 「いや、それは先代魔王の話だろ。たしか、鉄の羽のついた乗り物に乗ってくると聞いたことがあるぞ。」

 「いやいやいや、それこそ先代の魔王の話だろう。今の魔王は自転車マニアと聞くぞ。」

 「では、あれは本物の魔王……!?」

 「こら、滅多なことを言うな」

 「そうだよ!もしそれが事実なら石川様は……」

 「おい!!縁起でもないことを言うな!」

 「しかし……」

 「あ、なんか自転車の隣に鶴が一緒に飛んでいるぞー!」

 「なんだと!」

 「あ、あれは!」

 「勇者様ではないか!?」

 「ああ、きっと空の上でも奮闘してくださっているのだ」

 「ああ、勇者石川様……」
 




 実際は、普通に並んで飛んでいただけである。