二人はそっと立ち上がった。

「余計なお世話かもしれないけど、彼女の名誉のためにも言わせてくれ」

座っていて気づかなかったけれど、立つとオレよりもかなり背が高い。
そんな男から見下ろされていて、当然気分がいいはずはない。

よそを向いてきいていないふりをする。

「浮気してるのはむしろ君のほうだろ」

「はぁ?」

視線だけを向ける。
険しい表情の男と、オレのほうなんて一瞥もくれない彼女。

なんて敗北感。

もう、なんにも感じていない体を装っているのかも疑わしい。


「彼女に病気なんか伝染(うつ)して!」

はぁ?

それまで黙ってきいていたであろう周囲の人間もさすがに聞き捨てならないことを言っている男に不審がっている。


「も、もういいですからっ」

彼女はそいつのジャケットの裾をクイッと引っ張っている。
男もハッとして「ごめん」と小さく謝る。

あぁ本当にどっちが恋人だったんだろうか。


そして、去り際に彼女も言った、
「新しい彼女とちゃんと検査に行って。自分の身体を大事にしてね」
と。

どういうことなんだ。