彼女が初めて見たという透明傘を俺に差し出してきたので、すぐに受け取った。


雨の日に傘を購入するお客さんには必ず『すぐにお使いになられますか?』と、訊ねるのだけれど、今回はうまく言葉が出てこなかった。


それ所か、『いらっしゃいませ』という言葉すら、裏返ってしまっていた。


彼女が俺の声を聞いてクスクスと笑う。


その横でミホコは呆れた顔をしていた。


「この人あたしの同級生なの」


見かねたミホコが彼女へ向けてそう言った。


「そうだったんですね。学生さんなのにお仕事もされているなんて、すごいですね」


彼女は本当に感心している様子でそう言った。


「そ、そんな、とんでもないです」


今彼女と会話ができている。


その事実に心臓は通常の3倍くらいの速さで打っていたと思う。


よく倒れずに彼女を見つめることができていたのだと、今更ながら不思議な気持ちだ。