「もちろん奪うつもりなんかなかったよ。

だって後ろから刺される覚悟も,慰謝料を払うお金もないもん。

でもさ,一度だけ手を繋いだこともあるんだよ?」

涙ながらに私が語る。

「聞いたよ,お互い酔っ払ってたときでしょ?新井課長に至っては,次の日,『前日の記憶がない』って言ってたやつでしょ?」

京ちゃんは呆れ顔で言う。京ちゃんはいつもクールだ。

「それそれ!

でもさ,手繋いだら,ちょっとは期待するじゃん!」

「手くらいで。。。中学生か!」

つっこまれた。

確かに新井課長と私の間には大人の関係みたいなものはなかった。

でも私は常々「憧れてます!」アピールはしてたし,それに対して新井課長も満更ではなさそうだった・・・と思う。

「あんた,『もう,新井課長のことは忘れる!』って言って転職までしたのに,なんでわざわざ新井課長に会ってんの」

「だって。。。忘れられなかったんだもん。」

そう,会社を辞めたのはもう1年以上前なのだ。

新井課長のことは忘れるつもりだった。でもやっぱりそんな簡単には忘れられない。

2~3ヶ月に一度連絡をとって,近況報告などをしていた。

「だって,昨日久しぶりに会うことになったんだよ~。

誕生日だしさ。気分も盛り上がるじゃん。

それで我慢できなくて,マジ告白しちゃった」

「そしたら見事玉砕した,と。」

「うわーーーーーん!京ちゃんはっきり言い過ぎ!!」

ここが個室居酒屋で良かった。

私は他の人の目を気にせず思い切り泣くことができた。