離れに来ると、お茶とお菓子を遠慮なくいただいていた。
この部屋は鬼の話をするためだけの部屋らしい。
それに伴って鬼を倒したという伝説の剣や、文献が大切に保管されている。
何百年も前のものだから色あせていたり、破けているものも多い。
伝説を信じない私でさえこの部屋に来ると歴史の重みを感じて自然と背筋が伸びる。
「珠々ってそのお菓子好きよね」
「え、そう?」
「だっていつもそればかり食べているじゃない」
小夜に指摘されてお菓子を掴む自分の手を見る。
言う通り今最後のかけらを口に運ぼうとしていた。
私の大好物はかすてら。
異国のお菓子らしく、手に入れるのは困難な代物だ。
一条家に来た時しか食べられない貴重な食べ物。
「ほしいなら私の分あげる」
「いいの?!こんなにおいしいのに食べないの?」
「いいわよ。私はそんなに好きじゃないし。珠々のために取り寄せたものだから遠慮しないで」
「では、ありがたく…」
あー本当においしい。
これからもかすてらのためならいくらでも来られそう。
かすてらの味を噛み締めていると襖が開いた。
「お父様!」
「待たせたね。いらっしゃい珠々」
「お、お邪魔してます」
口に入っていたかすてらをお茶で流し込んで挨拶をした。
味は美味しいけど、口の中の水分が奪われるのが難点な食べ物だ。
おじさんが来ると私と小夜は正面に正座をして話を聞いていた。
初めはいつものあの童話から。
それから一条家の歴史、鬼について…
と変わらぬ順番で話し始める。
もう何回聞いたか分からない。
小夜はもう暗記できるくらいなのではないかと考えながら日が傾くまで話は続いたのだった。


