そんな幸せな日々が続いたある日、それは起きた。


その日、晩ごはんを食べた後、彼と散歩に出かけた。

2人で小道を歩いていたとき、

『いたぞ!あそこだ!』

どこからともなく村人が出てきてあたしたちを取り囲んだ。

あたしは彼から離れ、少し先を歩いていたため、村人に捕まえられてしまった。

「…ッ!そいつをはなせ!」

あたしを捕まえた村人はニヤリと笑い、あたしの首にナイフを突きつけた。

『お前が抵抗しなかったらこの狐は傷つけねぇ』

「ッ!?」

いきなり、彼の腕から鮮血が飛び散った。

頭の中が真っ白になった。

彼があたしのせいで傷ついている。

その事実をあたしの頭は受け入れなかった。

否、受け入れようとしなかった。

(なんで…どうして反撃しないの!?)

彼の力ならこの程度の人数はどうってことないはずなのに、彼は攻撃しようとしなかった。

(もしかして、あたしが人質に取られているから?)

あたしのことなんて放っておいて逃げればいいのに…

そうしている間にも彼は村人たちの攻撃を受け続け、ボロボロになっていた。

そして、あたしが見ている目の前で、倒れた。

『トドメだ。死ね、魔物め!』


嫌だ。そんな。あたしのせいで…彼を死なせるのは嫌だ!