塾へ着くと、パンフレットを一瞥した講師。
「まはあー、こりゃ見事に偏差値の高い所でなあ。」
なんて大柄で、熊みたいな山添先生はがははと笑った。

「笑い事じゃないですよお、プレッシャーですわ。こーゆーとこ行って中学校に恩返しとか」
「馬鹿か、自分の未来は自分だけ考えときゃあいいのよ」
山添先生は汗びっしょりのシャツをぱたぱた扇ぎながらそう諭した。
ロビーはクーラーが効いていて僕はちょっと寒いくらいなのに。

「まあ今日は夏祭りだからな!
たまには息抜きしてこいよ」
「あ、この前の模試対策の問題で、質問が………」
「今日は予定組んでないのでまた今度で」
「先生ぇ!いつも見てくれるくせに」
「俺だって奥さんと夏祭り行きてえよー」

先生は席を立つ。手を上下に動かして帰れと煽っているようだ。
「ちぇ、わかりましたよー」
僕もきびすをかえしドアへ向かう。
パンフレットを再度鞄に積めて、踵を鳴らす。
「高校って面白いですか」
「俺は楽しかったなあ!」

今の奥さんと知り合ったのも高校ですしね。
僕は彼ののろけが始まる前に家路を目指す。
夏祭りね。
綿菓子でも買って帰ろうか。