それは、放課後のことだった。
頭の良さから、お互いのことを意識しあっていたが、社交性の乏しさで自分から声をかけることはあんまりしなかった。
だけど、彼女と教室にふたりきりになってしまった。
「中条さーん、なにしてんの」
「検定の結果返されるの」
「そうなんですかー。なんの検定です?」
教卓に肘をついて、彼女は先生を待っているようだった。
「英検、準2だけどー」
「すごいじゃん、受かるといいね。
てか、意外。」
「なにが」
だって、君ほどの優等生がいまさら検定受験だなんて。
「いやー、なんでもー」
「中学の時は勉強なんてしなかったのよ」
「へえ、それこそ驚きなんだが。
部活とか?」
彼女は教卓の向こう側にいる僕にはにかんで「あんまりだよ」とそっぽを向いた。
「何部」
「軽音、いちおう」
「うわはー!いいね!」
「よくないよ。く、工藤くんは」
「僕?……バスケだけど」
「運動部かあ、文武両道なのね」
「部活はおサボりでしたよお。それこそガリ勉野郎なんでね」
彼女はまっすぐこちらを向き直り、真顔で「へえ」と呟いた。その後
「じゃあ、どうしてこんな学校に?」
と大真面目に聞いたのだった。
それ聞いちゃうー?
あのね、僕のこの経緯には結構、ロマンがありまして。
話すと長くなるんだけどなんて常套句並べる。
「いいよ」
透き通る君の声を合図に僕は頭をほじくり返してみる。