「すきっていってよ」

ご機嫌ななめ彼女。
僕の袖をつまんで引っ張るバス停。
これはまあ、帰り際のこと。

「すきだよ」
「すきよ」
「うん、すきだよ」
「すき」

真顔を崩さない君。
放課後、図書館に行っただけ。
こんなのデートなんていうのかな。
まあー、好きって、言うぶんにはどうにでも。
君が喜ぶならいつだって言うけどね。

「楽しかった。」
「そーかな」
「楽しくなかった?」
「勉強はつまんないよ」

君は腕から手を離して不安そうな顔。
「あなたらしくないわ」
なんて、眉を寄せて唇を噛む。

あのさあ。君って本当馬鹿。
「僕だって男なんですけど」
「なに」

「勉強より君と遊んだほうが楽しいだろ」
「なっ」

困り顔が、目を見開いて
驚いたって表情に変わる。

午後七時、バスが来るまであと少し。

「私も、そうだよ」
「さっき楽しかったって言ってたー」
「あなたと過ごす時間はいつもそうだもん。」

バスが来る音がする。
閑静な住宅街の外れ。

真上の街頭の真下、いるのは君と僕だけ。

「不意討ち禁止」
「ねえ」
「なにさ」

「すきよ」

ご機嫌ななめ彼女。
なんてことはなく、幸せそうな顔してる。

そう、思っていいの?

「じゃあね!」
「うん、また。ちゃんと数学復習するんだよ。本ばかり読んでないでね」
「わかってるわよ!」
「また、いこうね図書館」
「………………………うん」


「今度は帰り、キスしよっか」








すきっていってよ
きすをして。

図書館で君がしている行動を
見逃すわけないだろう。

こっそり読んでた恋愛小説。
わかりやすいのかなんなのか。

とたとた走る彼女のプリーツスカートが揺れる。
真っ暗に灯る温かい光。


「うん。」

バスに乗ってく君の耳が林檎みたいだ。