チキチキチキ、虫の音が響く空間。
「出番はいつなの」
「もうすぐ。」
「行きなよお、聴きに行くからさ」
光の下の影が一層濃くなった気がした。
時間も、時間。
「ああ、帰んないとな」
「お祭り行かないの」
「いや、勉強したい」
「頭良いんだね!」
「なのかなあ。そんなことないけど。」
「高校は何処に行くの?」
肩をすくめる。
「それが、決まってないんだよね」
ため息まじりに呆れ声。
他人に話すものでも無いけれど、それだけが今の悩みである。
「君はー?」
「私も決まってないよ。でもここの近くの丘乃上高校かな。」
「あー、駅から近いもんねえー」
「頭あんまり良くないし、行っても通えるかわかんないんだけど」
歪んだ顔の彼女は、不安そうに口の端が震えていた。悲しそうな表情で、僕はどう返していいかわからなくてフリーズ。
「ぁ、あんま学校行ってないから」
「病弱とか?」
「んーん、違うけど不登校気味てゆうか」
「はーん。大丈夫?いじめ?」
「違うけど、うーん。そんなかんじ?かな」
可哀想に。
確かに第二中は校則も緩いし、荒れていると聞く。染髪化粧は当たり前、器物破損や指導も多いらしいしなあ。
真面目な人には生きにくいんだろう。
「丘乃上もけっこう治安悪いけどな」
「近くで行けるとこそこくらいなの」
「勉強は楽しいよ、頑張ってみたら」
「今更?」
「んー、じゃあ高校からでもいいから。」
「出来るかなあ。私、まともに授業受けてなかったし」
「出来る!」
そうだ、いいこと考えた!
「出来たら、その証にさ、高校で会おうよ」
「え」
「僕も志望校丘乃上にするから」
「頭良い人にはもったいないよ!」



