「捨ててこい」
「はぁ!?ぜってーやだ!自分のドストライクな子なんか滅多にいねーのに!今日の相手はぜってーこの子にする!」
そう言うや否や私からパッと腕を離した“イズル”くん。
かと思ったらくるりと一回転させられて、離さないと言わんばかりにぎゅうっと強く後ろから抱き締められる。
その一連の動作は本当に一瞬の出来事で、どんくさい私には“イズル”くんを拒絶することもリョウとの対面を阻止することも出来なかった。
「っ、」
一瞬でリョウにさらされてしまった私は、心の準備なんて当然出来ていなくて。すぐ目の前にリョウがいると思うと逃げるどころが逆に体が強張ってしまった。
そんな私に出来ることがあるとしたら、リョウと目を合わさないように顔を逸らすことだけ。
幸いなことに、私の顔の大半はマスクで隠れているし、なにより、今いるこの場所は電気が点灯してなくて薄暗い。
だから、私だと気づかれる可能性は低いはず。
だから大丈夫。
……うん、絶対に大丈夫。
そう心の中で言い聞かせたときだった。
「───え?」
耳元で響いたのは、艶かしいリップ音。
そして、髪の毛越しに伝わってきたのは、微かな温もり。


