「うんいいよ」
クラスの人気者、白井(しらい) 湊(そう)が同じクラスの女の子と、メッセージアプリのアカウントを交換する。
その光景を眺めながら、赤金(あかがね) 真白(ましろ)は思う。
『人生の勝ち組、リア充が…』
白井を横目に赤金は、スマホの画面を眺める。そしてメッセージアプリの連絡先の欄を開き、何度も眺める。
「ハァ…」
何度見たって、そこに女の子の名前はない。
そりゃそうだ。
僕は『人生の負け組、非リア』なのだから。
「赤金くん?」
「まったく。これだからリア充は…」
頭上から聞こえる女の子の声に、妬み中の赤金は、気づく素振りもない。
「赤金くん!!」
「……っ!?」
声の主に揺さぶられ、やっと赤金は存在に気づいた。
「なっ!?なぁにぃっ!?」
慣れない女の子に赤金は、変な声を上げてしまう。そんな赤金を見て、女の子はクスクスと笑う。
「いや、いっつもボーッと何してるのかなって」
「…………」
しばらくぶりの女の子との会話で、口が動かず、ただ手だけが顔の目の前で空を切る。
「赤金くん?」
何も言わずに、手を目の前でブラブラさせている赤金を不審に思ったのか、女の子は赤金の顔を覗き込む。
「赤金く〜ん!」
「あっ!いやその〜えっと〜赤金、真白です」
「えっ?知ってるよ〜!同じクラスでしょ!」
えっそうなの?と心の中で赤金は質問する。勿論返ってくる訳もなく、ただ心の中でぶつくさと呟く。
「……私、縁堂(えんどう) 麻美(あさみ)。よろしくね?」
沈黙を切り裂くような、優しい一言に赤金は、危うく恋しそうになる。風でふわっと揺れた、縁堂の綺麗な髪に、赤金はうっとりする。
「髪、綺麗ですね……じゃなくて!赤金 真白です」
「2回目……じゃあ、連絡先交換する?」
…急!?でも、女の子の連絡先持ってないし。どうしよう。ってどうするも何も、当たり前だろ!
赤金はケータイをぐっと握りしめ、縁堂をパッと見る。
「は、はい!よろしくお願いします!」

こうして俺、赤金 真白は女の子の連絡先を入手した。


その夜、赤金は『麻美』と書かれた、縁堂の連絡先を眺める。その赤金の顔は、まんべんの笑みで少し気持ちが悪い。
家に帰りベッドでゴロゴロしていた赤金は、スマホを眺めながら時間を潰していた。

その時、あのアプリに気がついてしまう。

「ん?人狼?」
入れた覚えのないアプリに、赤金は少し気味悪く感じた。
ただ、その気味の悪さよりも、好奇心が勝ってしまい、アプリをタップし立ち上げてしまう。真っ黒になった画面をしばらく見つめていると『ようこそ』と赤い文字で表示される。
『これから人狼ゲームを始めます。ルール説明はタップすると出てきますので、よくお読みになってください。では、良い人狼ゲームを』

赤金は、迷うことなく、タップする。

『役職は以下の役職です』

村人 5人
人狼 2人
占い師 1人
霊能力者 1人
狂人 1人
狩人 1人
共有者 2人
呪われた者 1人
見習い占い師 1人
妖狐 1人
背徳者 1人

なお、呪われた者、見習い占い師は能力発動まで、村人として扱われます。


……他にも参加者がいるのか?色々考えながらも、もう一度タップする。

『参加中は、待機場、会議場の二つの場所で過ごしていただきます。会議場では、朝の話し合い、夜の処刑者決定会議と、朝夜使用していただきます。そのほかは、基本は待機場での生活となります』

ワクワクしながら、もう一度タップをしようとして赤金は、手を止める。
「怪しくないか?」
だって、自分で入れた記憶ないし、まずよく分かんないし。赤金は、好奇心と恐怖心の狭間でさまよっていた。
「真白〜!」
「っ!?」
母だと思われる声に、赤金は驚いて思わず、画面をタッチしてしまう。
「あっやばいっ」
何とかしようとした時には、もう時遅し。赤く光る画面と、遠のいていく意識。何が起きているのか理解できないまま、赤金は意識を失った。
「かぁ……さん……」