いつもはTシャツにハーフパンツという凪が、黒いポロシャツにデニムという格好で現れた。

すごく着飾っているわけではないけど、いつもと雰囲気が違っていてドキドキする。

ふたりとも普段に比べたらオシャレをしているのに、移動は相変わらず自転車で、やっぱりわたしが先を走る。

「くるみ!」

凪が後ろから声をかけてきた。

「今日はゆっくりこぎなよ。スカートなんだから」

「制服だってスカートだよ」

「そっか。でもせっかくかわいい格好してるんだから、汚さないように気をつけて」

まるでお母さんのような言い方に、わたしはケラケラと笑った。

わたしの家まで自転車で戻ると、あとはバスを使って町の中心地に出た。

「どこに行きたい?」

バスに揺られながらたずねられて、特に思い浮かばず「うーん」と悩むわたしに、凪があきれたような顔をした。

「行きたいところがあったんじゃなかったの?」

「全然考えてなかった」

「なんだよ、くるみ。変なの」

そう言われて、わたしはムッとして答えた。

「だって、いつもと違うことがしたかっただけなんだもの」

「えー?」

「いいじゃない、たまにはこういうことがあったって」

最初で最後のデートかもしれないし……、と言いかけてやめた。
凪に余計なことを口走って、満帆さんの邪魔になるようなことをしてはいけないと思った。

「じゃあ、デートらしいことしようか」

凪の言葉に、わたしはワクワクしながら「なになに?」とたずねた。

「『シーパーク』に行こう」

「いいね!」

海辺にあるシーパークは、この町で唯一、観光施設らしい場所だ。
海の生物が集められた水族館で、イルカやシャチのショーも見ることができる。
子供の頃はよく訪れたけれど、中学生くらいになると逆に行かなくなる。
わたしにとっても五年ぶりの場所だった。

久しぶりのシーパークに勇んで行ったけれど、夏休み中だからか、家族連れでめちゃくちゃ混んでいた。