事務所で仕事をしていた亘理さんを呼びに行くと、彼は驚いた様子もなく「分かりました」とうなずいていた。

「そんなに時間はかからないと思いますけど、ちょっと抜けます」

「小会議室にお通ししちゃったんですが、外に出ますか?」

「……いや、そのまま小会議室で話します。私用に使ってしまってすみません」


彼が足早に事務所を出て行ったあと、私はしばらくその場に立ち尽くしていた。
パソコンにはやりかけの画面が残っていて、部門別の売上傾向と客単価の分析がされている。

いつもいつもコマチのために頑張っている彼が、ブラマに戻るなんてことがあるのだろうか?

どうして郁さんは、あんなことを……。


気になって気になって、事務所をあとにしてからも気になって、廊下をあてもなくウロウロする。
もう少し行けば小会議室があって、そこで亘理さんたちは話をしているはずだ。

おそらく、彼が前に住んでいた部屋の名義変更などの話がメインになっていると思うが、どうしてもさっきの郁さんの話が気になって仕方ない。


「瑠璃ちゃん?どうしたの?」

あまりにも挙動不審な動きをしていたからか、通りがかりの大熊さんが心配して近づいてきた。

「あっ、いえ……なんでも……」

「なによ、気になるじゃない!」

彼女にグイグイと押されると、すぐにボロが出る私。
話してもいいのか分からないのに、つい郁さんが来ていることを話してしまった。


「今?来てるの?亘理さんの元カノが?」

「……はい。小会議室で話してます」

「あらあら、それは気になるわねぇ」