「白石さん。この間、靖人と二人でいましたよね。あの人とは、そういう関係なんですか?」

「え、そういう関係?」

「付き合ってるんですか?」

「いえ!そんなんじゃないです」

否定したけれど、動揺して声が上ずった。


なんで、そんなことを?
そう思ったけれど、わざわざ聞く場面ではないのは分かる。

そらさない彼女の視線は、私の心を見透かしているみたいでなんだか怖い。


「それなら、もしも」

と、郁さんが立ち上がる。
スニーカーの私と、高いヒールのパンプスを履いている彼女とでは身長差が発生し、見下ろされている格好になった。

威圧感はないが、私を気後れさせるにはじゅうぶんだ。

彼女は一度目を伏せてから、顔を上げた。

「靖人が、ブラマに戻るって言ったらどうします?」

「………………どういう意味ですか」


言い知れぬ不安が襲ってきた。それでもなるべく顔には出さないようにした。顔に出したら、相手が強く出てきそうで。

「もしも、の話よ」

肩をすくめた彼女は、フッと笑った。
ここまで来たのにごまかそうとする態度が、なんだかすごく腹立たしかった。

「………………嫌です」

「なにが?」

「亘理さんがここからいなくなるのは、絶対に嫌です」


ハッキリ告げた私は、失礼しますと言い残して小会議室を出た。



─────亘理さんが、ブラマに戻る?
なんで、そんなこと……。

嫌な予感を振り払うように、頭をブンブン振ってから事務所へ向かった。