亘理さんの元恋人である齋藤郁さんがコマチに現れたのは、私が彼女に会ってから約二週間後だった。
彼女はライトグレーのパンツスーツに身を包み、ものすごく「仕事ができます」感を漂わせながらレジにいる私に声をかけてきた。
「お仕事中にすみません。亘理靖人さんはいらっしゃいますか?」
ちょうどお客様が途切れて気を抜いたところだったので、どこからか話しかけられて驚いた。
振り向くと、見たことのあるショートカットの綺麗な女性が立っていて、私を見るなり目を見開く。
おそらく彼女も私のことを覚えていたのだろう。
微笑んで、会釈された。
私も会釈を返し、隣のレジにいるパートさんに少し抜けますと声がけして仕事を抜ける。
「こちらへどうぞ」
と郁さんを促して、店舗裏の小会議室へ案内した。
彼女はキョロキョロとお店を見回したり時折足を止めて何かを見たりしていたけれど、小会議室へ着いた時には落ち着いた様子でイスに座っていた。
腕時計で時間を確認する。
今なら彼は事務所にいるはずだ。すぐに呼べる。
「いま亘理さんのこと、呼んできますので」
そう言って、部屋を出ようとしたら郁さんに「待ってください」と呼び止められた。
「あの……、靖人はどうですか?このお店で……うまくやってます?」
「あ、はい。それはもう、すごく頼りになります。みんな信頼してますよ」
「……そうですか」
彼女はほんの少し眉間にシワを寄せていて、でも懸命に笑おうとしているのか口角は上がっていた。
無理して笑っているのが分かる。
この表情が意味するものは、なんだろう?
短い沈黙のあと、郁さんは私の顔をまっすぐ見つめた。



