「カツヒコヤスダさんは、市内では若者を中心にかなりの人気を博しているケーキ屋さんです。マカロンが有名のようで、連日お客さんが並んで買い求めているみたいですね。俺が行った時も混んでいました」

「行ったんですか、直接?」

「頼みに行くんですから、足を運ぶのは当たり前です」


カツヒコヤスダ、カツヒコヤスダ、と呪文のようにつぶやきながらたどたどしい手つきで携帯で検索したらしい一人の社員さんが、「おお!」と声を上げた。
みんなで携帯画面を覗き込むも、ほとんとが老眼のためかよく見えていないらしい。
笑っちゃいけないと思いつつも、ほっこりしすぎて口元が緩む光景だった。

「私、少し前にあそこのマカロン買いに並びました!でも、なんで……あんな有名なところがうちに?しかも絶対お値段も張りますよね?コマチで売れるんでしょうか?」

気持ちを切り替えて、亘理さんに思いついた疑問をぶつける。彼はこの疑問を待ってましたとばかりに迎える。

「私的なツテを使ってしまってすみません。安田さんは俺の先輩なんです、中学時代の」

「えっ」

「陸上部でお世話になった方で、ずっと連絡を取っていたんです。今回は最初から彼に依頼して、もちろん断られましたけど粘り続けて、お店に出向いて交渉して、台数に限りはありますが了承を得ました」

カツヒコヤスダが地元の人だということを、知らなかった。
こんなところで繋がりがあるなんて、人間関係はつねに良好にしておくとこういったチャンスを掴めるのだと実感する。

「それから、お値段はもちろん張ります……が、安田さんがものすごい自信を持っています。予約で完売させる、と。ネームバリューで買いに来るお客様が絶対にいるはずだからって。市内にまで買いに行けない方がこちらへ来るんじゃないかと」

「さ、さすが有名店のパティシエ……」

ついつい俺様っぽいイメージが浮かんでしまい、カツヒコヤスダさんに謝りたくなる。自信満々イコール俺様になってしまう自分の安易な思考回路を呪う。

「ついでに、十二月に二回ほど料理教室もお願いしちゃいました」

「え!?来てくださるんですか!?」

「安田さんではないですが、彼のお店のお弟子さんが」

「抜かりなさすぎです……」

亘理さんは、こう見えて本当に仕事が早い。信じられないくらいに先々のことを見据えて動いている。私にはまねできない。